WiLの投資先であるAsanaが本日、ニューヨーク証券取引所に上場しました。Asanaの対象市場である仕事の管理ツールの市場は近年急速な成長を遂げ、Asanaは四半期売上高が過去2年間で約3倍に成長し、この分野のリーダーに成長しました。
上場という大きなマイルストーンに際し、仕事の管理ツールという市場について、またAsanaの独自な企業文化や戦略について、投資家の観点から振り返ってみたいと思います。
仕事の管理ツールがなぜ重要か?
刻々と変化する顧客の要望に応えるため、成長を目指す企業は迅速に動くことが求められる世の中になりました。その結果、翌週の社内会議のために時間をかけて準備をしたり、長いメールを送り合う仕事のスタイルでは、意思決定や物事を進める速度に限界が出てくるようになりました。
新しいコミュニケーション・ツールであるSlackやTeamsなどは、こういった状況を反映して急速に成長しました。会議を待たずにチームで相談し物事を進める。長いメールを下書きすることに時間を使わない。そういった新しい仕事の進め方が、少しずつ日本でも浸透し始めているのを感じます。
一方で、Eメールであれチャット型であれ、組織が早く動こうとするとやりとりの量が増え、それに対応すること自体が「仕事」になってしまいます。出社すると届いたメールの整理に追われ、メールの内容が途中から自分に関係ないテーマに移行してしまっても、自分で自分をccから外すこともできません。その結果非常に長い時間をメール処理など「仕事のための仕事」に追われるのも、実は多くの企業で起きていることではないでしょうか。
こういった環境やテクノロジーの変化を踏まえると、「誰が何をいつまでにやるのか」という問いにきちんと応えられる仕事管理のツールが重要になり、近年急速に市場が成長しているのは必然とも言えます。
Asanaが最重要視するユーザー体験
Asanaはユーザー体験を非常に重視してきました。ユーザー体験を調査するチームは、しばしば製品戦略やデザインをサポートするだけの存在として位置づけられますが、Asanaでは製品戦略やデザインと対等・並列な位置づけとされています。その結果、Asanaはユーザーの視点を重視した、幅広い使用ケースに耐える、優れたデザイン・使用体験の製品を提供してきました。
ユーザーがAsanaを利用すればするほど、それまで存在しなかった仕事に関するデータが生成され、この新しいデータを活用した、今までにはないユーザー体験を生む可能性が広がります。今年の夏に発表されたAsanaの製品ビジョンは、ユーザーが深く製品を活用することによって可能になる、新しい働き方の未来を提示する画期的なビジョンであると私達は感じています。
このようにしてデザインされたAsana製品は非常に簡単に使い始めることができるため、営業の方法も通常のソフトウェアと少し異なります。Asanaの営業活動は、自発的にAsanaを利用しはじめたユーザーをサポートし、組織的にAsanaを活用することを支援するアプローチを中心としています。
2020年1月会計年度の数値を見ると、営業・マーケティングの費用は約10.6ヶ月で回収され、また同社の売上の41%が米国外の市場からの売上であると開示されている通り、このアプローチは非常に高い営業・マーケティング効率を可能にし、またAsanaの世界展開の原動力にもなってきました*。
アラインメント
これらのAsanaの取組を踏まえて、Asanaの最も特徴的な点は何か考えてみると、英語で言う「alignment(アラインメント)」つまり取組の方向性が一致していること、ではないかと感じます。
顧客が使いやすい製品を作るため、最も良い体制を作る。その結果高まる製品の使いやすさを前提とした、営業活動を行う。エンジニアリング・製品・デザイン・マーケティング・営業など様々なチームがお互いを信頼していなければ、つまり組織の中で「アラインメント」がなければ、上手く行くことは非常に難しいスタイルです。
米国にはGlassdoorという従業員による匿名の会社レビューサイトがありますが、Asanaは私の知る限りGlassdoor上で最良の従業員レビューを誇る会社の一つです。そんなデータポイントからも、Asanaがいかに「アラインメント」を重視してきたか、またそれに成功してきたか、を伺い知ることができます。
Asanaへ出資し日本展開を含む経営のパートナーとして協働をはじめて以来、事あるごとに私達はこの「アラインメント」の重要さに気付かされました。長期的に事業に投資をする経営チームの姿勢、そして私達が一緒に働く中で感じてきた、Asana従業員たちの優れた才能と熱意を考えると、Asanaが製品ビジョンの中で語った働き方の未来は、そう遠くない未来に感じます。
Asanaのオフィスには、一角クジラのぬいぐるみがいくつかあります。Asanaの従業員の間には、最も感謝したい同僚の机にそのぬいぐるみを置き、感謝の言葉を伝える習慣があります。ぬいぐるみを受け取った従業員は2週間後、自分が最もお世話になった従業員にそのぬいぐるみを渡し、感謝の意を繋いでいきます。「アラインメント」を重視するAsanaらしい取組だと思います。
このAsanaのユニークな風習に則り、「アラインメント」の力を気づかせてくれてありがとう、という感謝の意をこめて、私達のバージョンの一角クジラのぬいぐるみを近々Asanaへお贈りしたいと思います。
上場という大きなマイルストーンに際して、創業者CEOのダスティンをはじめAsanaの皆様に、心から祝福の言葉を送りたいと思います。
*Source: Asana S-1